今回はワギニスムスという症状についてお話します。
その上で克服法について少しだけ紹介させていただこうと思います。
少し前の記事で精神的要因や病気を除くと痛みには主に摩擦によるもの、柔軟性を欠いた状態での圧迫・拡張によるもの、子宮口へ直接的な刺激が加わるもの等の物理的要因があると書きました。
その時に触れなかった類の痛みがこの膣痙攣により生じる痛みです。
厳密には以前に挙げた痛みの種類のどれにも属さないというわけではなく、むしろいくつかのタイプの痛みが混ざり合ったものです。
物理的な痛み、精神的な痛みが合わさったようなものかもしれません。
以下膣痙攣という症状を通常の膣の痙攣と明確に区別するためにワギニスムスという名称で記事を書きます。
いつもよりもさらに無責任で偉そうで、自己批判も入った内容になります。
読みたい方だけ読んでください。
ワギニスムスとは
ワギニスムスとは簡単に言えば女性の膣が突発的に痙攣することで膣口周辺が収縮・過緊張する状態のことです。
その結果として膣内への挿入が困難になったり、挿入時に強い摩擦と圧迫が生じて痛みが走ったりします。
ワギニスムスはほとんどの場合心因性の症状であると考えられることが多いようです。
端的にはセックス時の恐怖感や抵抗感、その他マイナスイメージの影響を受けて女性に表出する症状だということです。
特に初体験時においては不安、緊張、未知への恐怖など、それ以外においては痛みの記憶と性行為が結びつくことで恐怖を感じて膣が萎縮して固くなり、膣内への挿入が出来なかったり、挿入時に激しい痛みを感じたりするものです。
一度痛みや辛さ、恐怖を感じてしまうと、膣内に意識を向けた時や性交時にそれが再燃して体が強張ってしまい、その結果また痛みを感じやすくなってしまうという悪循環に陥りやすいことが特徴です。
ちょうどフィジカル的な課題とメンタル的な課題の中間に位置しているとも、両面から考えるべき課題であるとも言えると思います。
女性がワギニスムスの症状に気づくきっかけとしては
- 生理用品(タンポン)が挿入できない、使用時に強い痛みが走る
- 初体験時にどう頑張っても挿入できない
- エッチの時に膣内に指すら入りそうにない
- エッチの際に時間をかけても男性器を挿入できない
などがあるようです。
つまり気づくシチュエーションは性交時だけとは限らないし、年齢も関係ありませんね。
その一方でワギニスムスという名前がつくほど有名な症状だとは思わずに、自分が特別な体質なのではないかと思い込んでしまう女性もいるかもしれません。
さらに難しいのはワギニスムスは必ずいつも表面化するとは限らないということです。
最初の性交時から現在まで常に性交時は挿入が困難で痛みを伴うという人もいれば、ある期間においては膣の固さ・圧迫感やそれらに起因する痛みを感じなかったという人もいます。
それ故に戸惑いを覚えたり、何が原因でそうなったのか分からないと感じる女性もいるようです。
貴女の膣口・膣内で何が起こっているか
ワギニスムスの痛みの感じ方として「引き裂かれるような痛み」を訴える女性がしばしばいると聞きます。
実際に私が触れた女性の中にも、指用コンドームや潤滑剤を使用した上で時間をかけて刺激しても痛みを感じてしまう方がいました。
一切爪が露出せず、またささくれ等も膣内に干渉しない状態で、ほとんど動かさなくても「引っかかれるような痛み」を感じるというのです。
では何故そのような痛みが生じるのか、ごく簡単に説明します。
まず、片方の手の人差し指だけを立てて下さい。
誰かに静かにすることを促すときに、「シー」とやる仕草です。
次にもう片方の手で、その人差し指を強く握り込んでください。
そして、握り込まれている人差し指を動かしてください。
少し傾けたり、前後に動かしたり、4分の1ほど回転させてみても良いです。
この時に握っている側の手の平が皮膚に覆われていない粘膜だと想像してみてください。
少し指を動かすだけで密着した粘膜が引き込まれて痛みを感じるであろうことがお分かりになるでしょう。
つまり、膣の意図しない過度な収縮・硬化によって挿入物との摩擦が過大になることが「引き裂かれる」ような痛みの原因であると考えられます。
そういう意味では以前にタイプ分けした摩擦による痛みと柔軟性を欠いた状態での圧迫による痛みが合わさったようなものと言えるかもしれません。
加えて、痛みの記憶・経験が膣内への刺激=恐ろしく体に痛みをもたらすものだという認識を生み、さらに痛みに過敏になった結果感じる痛みという側面も考えられます。
痛みは記憶(経験)に大きく左右されるので、どこかで認識を改めて対策を講じないと「セックス=痛くて辛い」という図式が頭の中で強固に出来上がってしまう可能性もあります。
性交痛を感じたら
ワギニスムスの克服法について話す前に、そもそもご自身の抱えている痛みがワギニスムスのような症状なのか知っておくことが必要です。
性交痛がある時にすべきことの1つが、ひとまずその性交痛が何らかの疾患に起因する痛みかどうかを知ることだと考えられます。
(性交痛のタイプと解決策の分析については別記事にしようと思います)
よって性交時に
- 我慢できない激しい痛み
- 焼けるような痛み
- 突き刺すような痛み
- その他強い違和感を伴う痛み
これらを感じる場合は一度産婦人科や性交痛・女性の性機能などについての治療を行っているクリニックで診察を受けることを考えてみると良いでしょう。
単なる評判ではなく貴女の辛さを理解してくれる女性の医師がいるクリニックだと良いと思います。
一概には言えませんが、子宮内膜症などをはじめとする病気の影響で性交痛が生じておらず、また以前に紹介した物理的な影響による痛みにも該当しない場合は、ワギニスムスの可能性を視野に入れてみてほしいと思います。
私が今までにお会いした女性の中には、病院に行って診察して問題ないと診断されたのに、性交時に快感どころか痛みしか感じられない、自分はおかしいのではないかと悩んでいた女性もいました。
膣痙攣の改善策
では、そのワギニスムスの症状をどのようにして改善していけばよいか簡単に紹介します。
ここで紹介するのはワギニスムスの代表的な克服法ではありますが、何故その方法が有効なのかといった補足の部分には私の個人的な意見も入りますので、予めご了承ください。
私は専門家でも何でもないので、あくまでもいち個人の意見だと捉えて下さい。
こういった改善策についての話を始めると「素人が余計な意見を言うべきではないし、女性も妙な情報に惑わされず性交痛や性器の悩みに精通した医師の診断・指導を受けるべきだ」と仰る方もいるでしょう。
もっともな意見だと思います。
ですがその一方で上記のように医師の診察を受けた上で問題なしと判断された結果、何が原因か分からなくなってより一層「自分はおかしいのではないか」と疑問を抱く女性もいます。
また、医師の診察等を受けた結果、より強い抵抗感を抱くことになったという例も国内外を問わずあるようです。
ですから疾患性の痛みでない限り、ご自身で克服するという視点も持っておいていただきたいのです。
疾患ではなくとも心因性のワギニスムスであれば、過去の経験が邪魔をしてしまうこともあるかもしれません。
それでも敢えてご自分でフィジカル面からの克服に取り組むことが重要だと思います。
前置きが長くなりましたが、ワギニスムスの特徴上、女性がトレーニングによって症状を克服するためには以下のことが必要であると考えられます。
- 膣が挿入できないほど柔軟性の無い器官ではないことを認識する(理屈)
- 膣部の筋肉もコントロールし得ることを認識する(理屈)
- 心身をリラックスさせる機会を設ける
- 無理のない範囲で膣をストレッチする
- 膣周辺の筋肉のコントロールを得る
- 自分自身が刺激に対してどのように反応するか知る
- 刺激の強さ、挿入物の大きさ等の許容範囲を知る
- 膣内への挿入が痛いものではないとの認識(体感)を得る
そしてこれらを達成するためにしばしば勧められることが、①骨盤底筋運動(ケーゲルエクササイズ)と②膣ダイレーター(vaginal dilator)を用いた膣部のストレッチです。
両者とも専門医師の元で必要か否かのチェックと適切な使用法の説明を受けることが出来るかと思います。
前者は以前に紹介した通り器具を使用しない方法や、自分自身の指を用いて行うことも可能ではあります。
一方で後者は専用の器具を使用し、小さいサイズの使用から少しずつ大きいサイズの使用に移行することで膣の柔軟性(物理的拡張ではなく、意識的に収縮と弛緩を繰り返せるという意味での柔軟性・拡張性)を高めるものです。
ケーゲルエクササイズと膣ダイレーターの使用の両方を行うことも、膣ダイレーターを使用することも、指や器具を膣内に挿入した状態でのケーゲルエクササイズを行うことも効果的なトレーニングになると考えられます。
ですが、ことワギニスムスの克服という意味では、指や器具を用いないケーゲルエクササイズだけだと改善を見込むのが難しいかと思います。
最初は痛みや怖さ・抵抗感などで出来なくても、少しずつ挑戦して自分の指を膣内に入れることが出来るようになることを第一の目標としましょう。
ケーゲルエクササイズ(骨盤底筋運動)による改善
以前にも同じことを書いたので繰り返しになりますが、個人的には筋肉量が過度に少なくて痛みを感じる、オーガズムに達することが出来ないという女性は、実はそれほど多くないと考えています。
ですが、膣部のトレーニングには自分の意識を膣へ持って行くこと、膣周辺の筋肉のコントロールという観点では非常に有益であると思います。
辞書的な意味では痙攣とは不随意に筋肉が急激に収縮することを指します。
自分の意思によって動かしているものではないので、それ自体をコントロールすることは難しく感じるでしょう。
ただ、そもそも自分の意思と反して筋肉が収縮していることそれ自体に気づける人とそうでない人がいます。
例えば、激しい運動の後に脚がプルプルと震えている時は、自分の脚が痙攣していることに簡単に気づくでしょう。
しかし、恐怖で脚がすくんでいるような時は、怖さには意識が向いていても「自分の脚の筋肉が強張っていること」にはそれほど意識が向かないかもしれません。
何が起こっているか気づけばコントロールできる余地はあります。
だからまずは気づくことが肝心です。
身体に意識を向けて、そういった自分の身体の反応に気づいて、どうすれば良い状態に近づけるかを考えることがとても大事だと思います。
ですからケーゲルエクササイズは自分の膣がどのような状態か、膣周辺の筋肉の動き・感覚はどのようなものか、意識を向けた上でコントロールを試みるために有効な運動であると言えます。
ワギニスムスの改善を前提とした骨盤底筋運動は
- 「締める」のではなく「緩める」を覚えるため
- 自分の意識で膣部をコントロールする練習のため
- 筋力を向上させて強靭さを養うため
に行うという意識を持つと良いでしょう。
つまりワギニスムスの症状で悩む女性にとっての骨盤底筋運動は、基本的には自分の身体に意識を向けて、自分自身をコントロールできるという自信をビルドアップするためのエクササイズだと考えて良いでしょう。
以前の記事では簡単にケーゲルトレーニングを紹介し、その際は必要な筋力と意識を育むことが目的であって器具の使用は本人の好みで決めるべきだと書きました。
しかし、今回のように膣内への挿入に課題がある場合には、その克服のために段階的に指や器具を使用するようにしましょう。
無理をしないにしても、自分の指を入れることが出来そうなら、指を挿入した状態で膣を意識的に収縮させるタイプのケーゲルトレーニングを行いましょう。
膣ダイレーターの使用による改善
膣ダイレーターは図のように小刻みにサイズが大きくなっていくように設計された一連の筒状の器具です。
日本性科学会のホームページでは同会が作成した膣ダイレーターの画像を見ることが出来ますので、興味がある方はご覧になって見て下さい。
ただし個人的には
- 体にとって安全な素材で作られていること
- 小刻みに段階的に大きなサイズを試せること
- 洗浄・除菌・保管・再使用が容易なこと
- 万が一人の目についても問題ないデザインであること
これらを満たしていれば製造元にこだわる必要はないのかなと考えています。
基本的な使用法は、自分が無理なく挿入できそうな小さいダイレーターから順に挿入を試みて、挿入が出来たらしばらくの間動かさないでダイレーターの挿入間に膣が慣れるように様子を見たり、さらに慣れてくれば少し動かしたりして挿入時の刺激に膣を順応させていくように使います。
そして段階的にサイズの大きなものを使用して、男根に近い大きさのものを挿入できるように慣らしていくことです。
器具・ダイレーターを使用する前に
器具を用いたケーゲルエクササイズや、膣ダイレーターを用いたトレーニングを行う前に、次のことに気を付けましょう。
- 心身のリラックス
- 潤滑剤の適切な使用
- 膣周辺のマッサージ
まず、前述のようにワギニスムスやそれに類似する症状は、多くの場合心因性であり、克服には心身をリラックスさせることが必要です。
周りの音などが気にならない、静かでくつろげる場所で行いましょう。
それ以外には例えば深呼吸を繰り返すとか、自律訓練法を試してみるとか、いつもよりも落ち着いて脱力する感覚を意識しましょう。
次に器具を用いたケーゲルエクササイズや、ダイレーターを用いたエクササイズの際には、挿入前に膣周辺の緊張をほぐすようにマッサージすることと、挿入時の摩擦を軽減するために潤滑剤を適切に使用することが望ましいです。
そして、その際は必ず水溶性の潤滑剤を使用することにしましょう。
(シリコン由来のローションなどだと、器具を溶解させてしまうおそれがあるため)
医療目的で使用されることもあるKYゼリー、リューブセリーなどが代表的な水溶性の潤滑剤として挙げられますので、是非チェックしてください。
表面麻酔を含む潤滑剤等の使用は基本的にはお勧めしません。
使用するのであれば、挿入が極めて困難な女性の初回のエクササイズにおいて、「挿入することが出来た」という小さな成功体験を得るためのピンポイントな使用等が望ましいと思います。
別に挿入することで膣に拡張性がもたらされるというわけではなく、膣の緊張を弛めて挿入物を受け入れる練習だと考えましょう。
そして段階的に男性自身に近いサイズのダイレーターを挿入できるようにしていくことで、痛みなく挿入できるという自信をつけていくためのエクササイズだと捉えましょう。
器具が大きすぎると感じたら
おそらく実際の器具を見て「こんなに大きいの?」とか「何だか痛そうで怖い」という印象を受ける女性も少なくないと思います。
そう感じられた方はまずは器具ではなくご自分の指などで始めてみてはいかがでしょうか?
ワギニスムスによる痙縮の程度によっては指を入れることも難しいかもしれないので、最初は綿棒のようなごく細いものから始めて、生理用品や自分の指⇒一番小さいダイレーター⇒ワンサイズ大きいダイレーターと段階的に挑戦していくと良いでしょう。
潤滑剤などを使うとしても無理はせずに、あくまで段階的に挿入できるもののサイズを大きくしましょう。
指や同じ大きさのダイレーターを使用する場合でも、前回よりもさらにスムーズに挿入できるように身体を弛める感覚を養いましょう。
器具の使用に抵抗感がある人もいる
先に膣内を段階的に拡張するダイレーターや、器具を用いたケーゲルエクササイズについて紹介しました。
しかし、女性の中にはそういった器具を購入・所持すること、使用すること、そのどちらにも抵抗を感じる方が少なからずいます。
それならばせめて貴女が自分の指で、自分自身の痛みや違和感をコントロールできる力加減で膣内をほぐす練習をしましょう。
最初は膣口の辺りを軽くほぐすように始めて、当面の目標は指1本が痛みなく挿入できることとして取り組んでいく。
指1本が無理なく入るようになったなら、今度は少しずつ膣内の柔軟性を高めるようにして、指が2本入ることを目指す。
痛みなく指が2本入れば、性交時に痛みを感じずに挿入することにかなり近づくでしょう。
そのようにして、自分の感覚や力加減が最もコントロールしやすい自分の指で膣をほぐしていくことが望ましいと思います。
それでも気が進まないという方もいるでしょう。
膣痙攣の症状やセックスに辛さや痛みなどの強いマイナスイメージをもつ女性には「器具を使うことはおろか、自分の指で触れる事さえ怖いし抵抗感がある」という方もいます。
そういった方には抵抗感があるかもしれませんが、自分自身の性器を観察したり、触れたりすることをタブー視せずに少しずつ試してほしいと思います。
自分の許容範囲や感覚をしっかりと把握しておけば、どこまでのことが出来て、どこまでのことが難しいのか分かるようになります。
結果として痛みや辛さしかない不本意なセックスを避けることが出来るかもしれません。
心情的には理解できますが、男性だけが女性に触れて全てを把握しエスコートするべきだという考えを私は支持しません。
それでも嫌だ、何故そんな時間と手間をかけなければいけないのかと思う女性もいるかもしれません。
もしくは、上手くいくか分からないことに労力を使いたくないと考えているかもしれません。
それなら仕方がないです。
貴女が自分自身に望まないことは誰にも実現できませんから。
・・・でも情報だけでも知っておこうかなというぐらいの前向きさがあるのであれば、下記の認知行動療法で改善が見られた例などにも目を通してみて下さい。
迷っている方については・・・
とても無責任でデリカシーの無い言い方になりますが、もしも貴女が心身ともに大丈夫で痛みや辛さを感じないというタイミングの把握が出来て、貴女にとって完璧な相手の両方が揃った時にしかエッチをしませんと断言できるのであれば何もしなくても良いと思います。
好きな相手に求められると、不安を感じつつも始まってしまうことはあるでしょう。
それは男女ともにそうです。
断ってわだかまりが出来るかもしれないし、応じてもお互いが辛くなるかもしれない。
だから貴女自身がその時に備えて変えられそうなことを変えていくしかないのです。
貴女が健康な女性なのであれば、自分の身体に自分で触れることで取り返しのつかないような状況に陥ることなどないでしょう。
挑戦心と自信と責任感を持って取り組むべきだと思います。
軟膏・麻酔薬等の使用の是非
先ほど表面麻酔の入った潤滑剤の話をしました。
麻酔と言うと大げさに聞こえるかもしれませんが、実はデリケートゾーンの痒み止めに用いられる軟膏等の中にはリドカインという局所麻酔薬が含まれているものがあります。
(余談ですが、私は麻酔効果のある某軟膏を男性自身に塗ることで、皮膚が鈍感になって持久力を上げることが出来るという話で初めてこのことを知りました)
一般的なドラッグストア等で購入できるため、痛みを紛らわすために使用することは可能かもしれません。
体に害がない容量であればエクササイズの初回ぐらいは使用しても問題ないとは思いますが、あまり使いすぎることはお勧めしません。
個人的にはエクササイズの初期においてどうしても痛みや恐怖が先立って挿入が出来ないという場合にのみ適量使用し、綿棒ないし自分の指ないしが十分が準備をすれば挿入できるという自信がついたら使用を止めるべきだと思います。
痛みを感じないことと快感を得られることはまた別の話です。
ワギニスムスや性交痛で悩んでいる女性にとっては、何も感じないのであれば御の字と考えている方もいるかもしれませんが、痛みを感じずに済むようになるのはあくまで痛みの克服であって、性的な満足感を高めるためには感覚を遮断することが良いことだとは思いません。
あくまで補助的なものという位置づけにしておく方が良いと思います。
認知行動療法による改善
そもそも今まで説明してきたようなことを実践してみてうまく行ったという実例やデータはあるのかと気になる方もいるかもしれません。
そういった方に向けて、ワギニスムスに関する研究や報告等は複数ありますが、その中でワギニスムスの症状を持つ女性を対象に認知行動療法を行うことで改善が見られたというケースも紹介しておきます。
【研究概要】
ある研究では生得的ワギニスムスの症状を持つ女性をランダムに
①グループ療法
②ビブリオセラピー(読書療法)
③待機の3つの群に分け、それぞれを比較した。
グループ療法では6人~9人のグループに分けられ、2時間のセッションを10回行った。
一方で読書療法では参加者にマニュアルが渡され、それを実行する傍らで2週間に一度セラピストから15分間の電話での助言を受けた。なおこの認知行動療法の内容は性教育、リラクゼーションエクササイズ、漸進的曝露療法、認知療法、センセートフォーカスであった。
【結果】
21%の参加者が治療後の評価前にこの研究への参加をやめたものの、治療企図解析によると待機コントロールのグループが0であったのに対して、治療を受けた参加者の14%が治療後の性交に成功した
また、12ヵ月の追跡調査ではグループ療法の参加者の21%と、読書療法の参加者の15%が性交の達成を報告した。
【参考】
van Lankveld JJ1, ter Kuile MM, de Groot HE, et al.
Cognitive-behavioral therapy for women with lifelong vaginismus: a randomized waiting-list controlled trial of efficacy.
【サドハラによる補足】
※漸進的(段階的)曝露療法(エクスポージャー)は、例えば最初に女性自身が自分の膣を観察し⇒次に自分で触れてみる⇒パートナーの手で触れてみる⇒自分の指を1本入れる⇒・・・というように段階的に恐怖を抱いている行為に向き合っていくような方法です。
※認知療法は、例えば女性が「私の膣は狭すぎて指すら入らない」という認識に対して「女性の膣は赤ちゃんが通ることが出来るほど柔軟に出来ている」という風に合理的な再認知の構成を促す方法です。
※センセートフォーカスは、ニュアンスが説明し辛いですが・・・例えばパートナーと裸で触れ合う際に、相手の感覚やオーガズムや性器の反応についてではなく、自分自身が得ている感覚に集中する方法です。
要するに自分の症状への対策を段階的に着実に行うことで、改善を重ねるとともにマイナスイメージや本人にとって好ましくない認知を変化させる方法には一定の効果があるらしい、ということですね。
ただし、その効果が劇的なわけでもないので、何とも言えない部分がありますけどね。
もっとも、取り立てて○○療法が効果的であったというよりは、自身の症状がどのようなものであるか、一般的にどのようにして改善していくべきかという情報を得る時間を確保して改善に取り組んだことが一定の改善例を生んだのでしょうけどね。
理屈と実践の両面から認知を変えていくというのは、とても重要なことだと思います。
知ること、意識すること、把握すること、それらによって自分の課題を解決していくことが重要なのは私も主張するところです。
だから私がこういった記事を書くのもそのため。
別に「貴女はこうです」と決めつけたいわけでも、「私はこうなんだ」と決め込んで欲しいわけでもなくて、色々な可能性を知って自助努力でも改善できることがあると思ってほしいから書いているわけです。
たとえそれが偏っていたとしても。
催眠療法の是非
〇〇療法という話のつながりで、少し変わった解決手段についても触れておきましょう。
皆様は催眠療法という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?
日本では怪しい・ショーのネタといったイメージが先行する催眠ですが、アメリカの催眠療法についての書籍等では、自分ではどうにも出来ない、医師やセラピストに相談しても解決できなかった問題を催眠療法士が解決する・・・そういったエピソードを目にすることがあります。
ですから、そういった方面に明るい方であれば、ワギニスムスを始めとした性の悩みの一部は催眠療法により改善できるのではと思いつくかもしれません。
あるいは完全に誰かに誘導してもらうのではなく、部分的な自己催眠による無痛分娩(hypno birthing)のように痛みをコントロールする術として自己催眠を身につけることをワギニスムスの解消法として思いつく方もいるかもしれません。
それ自体は悪いアイデアではないと思います。
特に後者の自己コントロールという視点はとても有用だと感じます。
催眠は現時点では療法として完全に確立できるほどの科学的な確かさはないと思いますが、科学の対象ではあるし、全くの眉唾物というわけでもありません。
療法と言うほど大げさなものではなくても、例えば大嫌いなニンジンの味を催眠術でリンゴの味に変えて、食べさせてみることで嫌いな食べ物を克服するといった事は起こり得ます。
精神的な思い込みに起因する痛みなどを和らげることも出来る場合があるでしょう。
ですからそれを応用して痛みや辛さを軽減することも、理屈の上では可能ではあります。
それだけで上手くいくケースもあるとは思います。
そもそも思い込みやある種の自己催眠によって痛みを感じている人もいるかもしれないし、実際にワギニスムスによる痛みを訴える女性でも意識が膣内へ向かなければ痛いと感じていない時があります。
だからもしも本当に信頼できる性の悩みすらも打ち明けられるような催眠療法士がいるのであれば、選択肢の一つにはなり得るかもしれませんね。
しかし、催眠による克服というのは、得てして『催眠は解けても「自分が苦手なこと・ものを克服できた」という経験・記憶は残るから、その後も苦手な食べ物を口に入れたり、恐怖を軽減させたりできる』というニュアンスで語られるのではないでしょうか。
それで終わればハッピーなのかもしれませんが・・・
どれほどの方が「ではその後再び痛みや辛さを経験して恐怖やマイナスイメージが先行した時にどうすれば良いか」という根本的な問題についての正解を教えてくれるでしょうか?
貴女の心に不安が生じる度にヒプノセラピストを頼らなければいけないのでしょうか?
それともまるで習い事のように1ヶ月に1度治療を受ける必要でもあるのでしょうか?
結論から言えば、病気でない限りは貴女の課題は貴女自身が克服することが最も望ましいのです。
どんなに信頼できる人でもいつも貴女の傍にいるわけではないし、いつでも貴女が会いたいときに会えるわけではありません。
(貴女自身が課題を克服する形でセラピーを帰結させることが出来る力量のある人が存在するか・・・という話になれば分かりませんが)
ですが、貴女の意識と身体は当然いつも貴女と共にあります。
だから私はまずは認知を改める意識を持つこと、その上でフィジカル面から課題の克服に取り組むことを勧めています。
その方が再現性があるからです。
つまり、誰かが貴女を不思議な心理状態に誘導したから何かが起こるのではなく、根本的に自分自身に、自分の身体に課題を解決する力が備わっているのだと認識することが根本的な解決のために必要なのです。
パートナーとワギニスムスを克服する
これまでに基本的には女性自身が取り組んでいく過程で、自分の身体を知り、柔軟性と自信を身につけ、痛みを感じる時や許容範囲を知ることが重要だと述べました。
しかし、もしも身近にいるパートナーに打ち明けて協力を得られるのであれば、それも良い選択肢なのかなと思います。
相手を気遣って言い出し辛いとか、逆に気を遣われるのが嫌なので我慢しているとか、お互い自然と諦めてしまってセックスレスになっているとか、課題解決志向になってしまってベッドの上で良い雰囲気が無くなるのが嫌だとか、色々な状況があると思います。
近しい相手にこそ打ち明け辛いというのが難しい所ですね。
ですが、もし一人で行うのは難しいけど、誰かの助けを借りれば挑戦できるかもしれないと思うのであれば、パートナーの協力が得られるととても心強いのではないでしょうか。
もしも貴女のパートナーが貴女の状態を把握し、症状の改善に前向きなのであれば、協力を仰ぐことも選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。
実際に挙児願望を持つ旦那さんが奥さんの性交痛の克服に協力し、良い結果を得られた例などもあるようです。
個人的にはもっとそういった例が増えて然るべきだと思っています。
当ブログの体験記事とワギニスムス
当ブログの体験においては、今までの体験をまだ全て記事にすることも出来てはいませんし、全て公開するかどうかも分かりません。
まだ公開できていないケースで、ワギニスムスの傾向がある女性との件もいくつかあります。
また、程度に差はあれども、既に公開している記事についてもこういったワギニスムスやそれを引き起こす要因にある程度関連したケースがあったと思います。
例えばさやかさんの記事。
今にも増してまるでなっていない私でしたが、幸いにして「気持ち良いかな」って思ってもらえたようで、彼女は体験時の感想として「痛かったり辛いだけだと思ったけど、相手によるんだなぁって思いました。」と言ってくれていました。
私はこの時、ひとまず彼女が自身の「エッチな事=痛い、辛い」という思い込みを解かしてくれたことを嬉しく感じていました。
けど多分本当はそれで気分を良くしているようではダメだったのかもしれません。
その直後の彼女のセックスがどうだったかというと、後日談にあるように「相手が特別丁寧というわけでもなかったけど、痛みを感じずに奇跡のようだった」と教えてくれました。
しかしその後またすぐに「痛かったらどうしよう、濡れなかったらどうしよう」という不安が込み上げてきて、2回目のエッチは「砂漠状態」だったと伝えてくれました。
一時的な性交痛の解消・・・それは「セックスはいつも痛くて辛いものではない」という考えが彼女の中に芽生えたことで、怖がって身体を固めてしまう状態から一時的に抜け出したものだと見ています。
ですが、彼女には自分で課題を克服するという感覚や、自分の許容範囲を知って相手との関係をある程度コントロールすることへの挑戦までは意識が向かなかったと思います。
(分かっているけど難しいし出来っこないという気持ちはあるにしても)
私が「こういう事もある」という程度の経験しか提供できなかったから。
だからまるでおまじないの効果が薄れたみたいに、再び「痛いんじゃないか、辛いんじゃないか」という恐怖が彼女の身体を固くして潤いを奪い去ってしまった。
彼女に痛みを感じるかどうかはいつも完全に「相手による」のではなく、彼女自身がある程度コントロールし得るものなのだと、そして主導権は相手にあげるにしても全てを相手のやり方に任せるのではなく、彼女が良いと思えるタイミングに至る過程を守るようにするべきだと、もっと確信をもって告げるべきだったと感じています。
でも正直説教っぽくなったり、彼女自身のせいだと言っているように間違って捉えられたりするのが怖かったし、彼女に冷静でいようという慣性が働いているように思ってたからあまり響かないんじゃないかと思っていました。
ただ、今にして思えば彼女がとても冷静なように感じたのは、今までの経験から来る怖さが理由だったのかもしれません。
十分すぎるほど覚悟を決めてくれたのに私が勝手に怖がって言うべきことを言えなかったのだと、今ならそういう風に感じます。
あるいは、ゆめさんのケース。
実のところ、この言い訳がましい体験記事を書いた時の自分を非常に恥ずかしく思っています。
記事にある通り、私が下手くそ過ぎて彼女に痛みを感じさせてしまったというごく単純な話なのですが・・・
多分今にして思えば少し痛いとかそういう程度ではなく、相当な痛みだったのではないかと思います。
彼女に痛みを感じさせてしまった理由・・・それは私が相手の課題を知ろうとしなかったし、そのレベルについて考えてもいなかったことが最も大きな要因であったと考えています。
彼女は消極的選択肢として私に連絡をくれましたが、それにも増して実際のやり取りはギクシャクしていていました。
私はそれを「心を開いてくれない」みたいな低レベルな言い訳にしようとしていたと思います。
しかし彼女が固まったり冷静でいるように見えたのは、程度の差こそあれど恐怖する状況に直面した時に脚がすくんでしまうような、声が出なくなってしまうような、そういう状態に似ているものだったのかもしれない。
実際にどうかは別として、そういう観点が自分の中にありませんでした。
後になってさらに数人の女性とお会いする中で、静かにすることができないぐらいお喋りな女性が中に触れようとすると押し黙ってガチガチに固まってしまう様を見て、さながら練習もせずに試合に出されて戸惑う子供のように「分からない」と連呼する女性を見て・・・
彼女達のどこか冷静で無関心なように見える様は、少なくともその一部は私への抵抗感や体験時の緊張とは少しニュアンスが違うものなのかもしれないと、遅まきに気づき始めたのです。
もっといくらでも見るべきところはあったし、するべきことがあったと、今更感じています。
そして私はそのときの体験を、時間を通じて彼女に新たな苦手意識を植え付けてしまったのではないかと、後になってから怖くなってしまっています。
私が「何か出来る風」に見せて、その実女性により決定的な悪い体験をさせてしまったかもしれないこと。
これは動かしようのない事実だと考えています。
こういったことは本来ならばもっと早く個人個人に伝えておきたかったのですが、このような形になってしまいました。
しかも記事にするのも随分遅くなってしまって、書いてるうちにもっと女性にオススメの一人エッチの方法の記事のように体系的に書いたほうが良いな~とか思ってグダグダの記事になってしまいました。
克服するのは貴女自身
精神的な課題であったり、それまでの経験のせいで快感を伴うセックスが出来なかったり、そもそも性的な気持ち良さやムードが理解できないという女性は一定数います。
むしろ私が知る限りにおいては、性に悩む女性にはそういった人が多いのかもしれません。
性交痛にも様々なタイプがあるし、それ以外にもオーガズム障害とカテゴライズされる症状はたくさんあります。
しかし、ワギニスムスは女性自身がフィジカルベースで改善し得る課題ではあります。
だから自分の身体に意識を向けて少しずつ挑戦することで改善して欲しいです。
そしてご自身の身体の状態を把握しようと努める過程で、何が本当で自分に何が必要なのか少しずつ発見していただきたいと思います。
しばしばセックステクニックを説く書籍があったり、テクニック自慢の男性がいたりします。
ですが、挿入すらままならない女性に対してテクニックが通用する訳が無いのは言うまでもなく、女性は(特に性交痛に悩む女性は)そろそろ根拠のない自信やテクニック論を展開する男性に望みをかけても良い結果を得られないことに気付いても良いと思います。
どれほどの男性が女性の持つ課題の難易度を把握しているでしょうか?
どれほどの女性が自分が持つ課題について真剣に考えているのでしょうか?
そしてどれほどの方がその課題を克服しようと自発的で建設的な努力をしているでしょうか?
私には皆目見当もつきませんが、少なくともこの記事を読まれる女性には思慮深くあってほしいと考えています。
そしてたとえ誰かの手によって課題が解決されるように見えるとしても、本質的に貴女の課題を解決することが出来るのは貴女自身のみであるということを覚えておいていただきたい。
最後に残るのはただの結果。
そして「誰かのおかげで・・・」なんてものは貴女がその過程で関わった人にどの程度の注意を払うかということだけなのだから。
完全には納得できなくても始めたほうが良い
もしかするとこちらの記事を読まれて初めてご自身がワギニスムスと称される症状に直面しているのではないかとお気づきになった女性もいるかもしれません。
そして、その上で克服するために上述のような行為を着実にこなさなければいけないのかと、少し気が重くなった方もいるかもしれません。
どうして自分がそのような努力をしなければいけないのか?
何故他人が楽しそうにしているセックスが、自分にとって痛く辛いものなのか?
そう考えて前向きになれない方も少なくはないはずです。
私がお会いした女性には「何もしなくても気持ち良くなれる人がいるのに、どうして自分はそうじゃないのだろう。羨ましいしずるい」とこぼしていた方もいます。
とてもストレートな言葉でした。
それ故に深く刺さる言葉でもありました。
誰一人として同じ人間ではないし、誰一人として全く同じ経験をして同じように感じる人間はいません。
それ故に快感に目覚めていく進度も、痛みや辛さを克服していくためにかかる時間や手続きも人によって大きく異なります。
逆に言えば快感も痛みもそれ単独では何ら味わいも色もないものかもしれません。
当人の経験や記憶がその身に受ける感覚に違いをもたらすのだと思います。
初めての快感が瑞々しいものだとは限らないし、痛みや辛い経験が振り返った時に悪くないものに思えることもあるでしょう。
感覚に深みを与えるのは個人の経験なのだと、私は思います。
だから今自分の課題を克服しようと考えている女性は、きっと克服した先で何か違う感覚を得ると思います。
その瞬間じゃなくても、もしかしたら何年も後になるかもしれないけど、自分が思い悩んだ経験が自分の感覚に溶け込んで、快感にも痛みにも違った色をつける時がいつか来る。
大げさかもしれませんが、そう思って少しずつ取り組んでみてほしいです。
追記
2023年7月から、希望者と対面で話して課題を解決する「面談」を開始することにしました。
上記かなりの文章でワギニスムスについて説明や改善法を記してきましたが、疾患等ではなく心因性のものであれば、面談により改善することが可能ではないかと考えております。
性交痛に関しては今までかなり複雑で難しい課題であると考えていましたが、1時間程度面談することで従来の体験を半日受けていただくよりも高い効果を出せると思っています。
希望される方、ご質問等がある方は、面談の概要をご一読の上、ご相談ください。