皆様は膣トレという言葉を耳にしたことがあるでしょうか?
その名の通り膣を意識的に動かしてトレーニングすることです。
本質的には骨盤底筋という筋肉を鍛えることで、女性がセックスにおける自己満足度を向上させたり、結果としてパートナーとのセックスの満足度を高めることを指します。
今回はその膣トレの元ネタと思われるケーゲルエクササイズとその実践方法について少しだけ書いていきたいと思います。
なお、ここでのケーゲルエクササイズは女性向けのものを紹介します。
※現時点で十分な骨盤底筋の力が備わっている方は、トレーニングをしなくても大丈夫です。むしろ過度なトレーニングや周囲の筋力とのバランスを崩すような鍛え方は体に良くないのでご注意ください。
ケーゲルエクササイズとは
骨盤底筋体操またはケーゲル(キーゲル)体操とは、骨盤底筋を鍛えるシンプルな運動です。
アーノルド・ヘンリー・ケーゲルというアメリカの産科医が考案したことから、彼の名前にちなんでケーゲルエクササイズと呼ばれています。
もともとは出産や加齢、体重の増加等によって尿漏れに悩む女性に役立つ運動として考案されたものです。
簡単なエクササイズの内容は以下で紹介します。
※彼の考案したケーゲルエクササイズは、以下で説明するエクササイズに加えて、専用の器具やバイオフィードバックを活用した手法であったそうです。
ケーゲル体操を行うべき人とは
ケーゲル体操は主に以下のような特徴のある方に推奨されています。
- 笑ったり咳をしたり、物を持ち上げた際に尿漏れをしてしまう
- 閉経した女性
- 閉経を早めるような副作用のある医療行為を受けた方
- 膣周辺への放射線治療を受けた方
- 中年以上の年齢の女性
- 子供を産んだ経験がある方
早い話が加齢や膣周辺の筋肉を弱める可能性がある経験した方が、筋力を取り戻す・高めるために取り組むことが望ましいわけです。
従って加齢によるホルモンの分泌減少や放射線治療等の経験により、骨盤底筋の筋肉が弱まっている可能性が高い方に推奨される運動です。
しかし、その後研究により骨盤底筋の筋力の強さとオーガズムを感じた際の反応の強さが比例関係にあることが分かり、無オーガズム症を解消するための手立てとしても注目されることとなったのです。
骨盤底筋を鍛えることで得られる効果
先に述べたように尿漏れを防止する効果とオーガズムを強くする効果がありますが、全体としては以下のような効果があると考えられています。
- 尿漏れを予防する
- 性行為の際に感じる快感を強くする
- 膣周辺への血行が良くなる
- 膣内が潤いやすくなる
- 膣の締め付けが強くなる
- セックスの満足度が上がる
膣周辺の筋肉が発達すれば血行が良くなり、膣周辺を温かく保つことが出来るようになります。
また、血行が良くなると膣内が潤いやすくなるため、性交時に痛みを感じにくくなることも考えられます。
筋肉が鍛えられることで膣内で男性器が強く締め付けられたり、男性が感じる膣内での摩擦が強くなるといったことから「膣トレをすると名器になる」という表現でエクササイズが紹介されることもあります。
このことから、無理のない範囲である限りは骨盤底筋を鍛えて損することはないと言えるでしょう。
「膣トレ=イキやすくなる」ではない
ただし、一つだけ注意していただきたいのは、膣トレ(ケーゲル体操)を行ったからと言って直ちにセックスの満足度が上がるとは限らないということです。
どちらかというと、トレーニングによって弱っていた筋力を標準レベルに戻した結果、快感を感じやすくなる可能性が高まるというだけです。
実際には骨盤底筋が著しく不足している人というのは少数派だと思いますし、エッチへの関心が増すか、セックスが気持ち良くなるかというのはむしろ他の要因(精神的問題、ホルモンバランスの乱れ等)の方が大きな問題だとも考えられるからです。
あくまで筋力不足に心当たりのある女性や、興味のある女性が適度に取り組むべきであって、それ以上でもそれ以下でもないということを念頭に置いて取り組んでください。
一見タイトルとは異なることを言っているようですが、ご理解くださいね。
では、そろそろ本題のケーゲルエクササイズのやり方の説明に移りましょう。
正しい筋肉を使っているか確認する
実際にトレーニングで骨盤底筋を鍛える前に重要なことが一つあります。
それは骨盤底筋がどこにあるのか、使うとどのような感覚があるのかを認識することです。
鍛える対象が分からなければ効果的なトレーニングを行うことができないので、当然のことですよね。
骨盤底筋を意識する方法はいくつかありますが、以下に代表的なものを示します。
方法①
トイレの中で便器に腰かけて、おしっこをしている様子をイメージします。
そして、おしっこを途中で止めるように力を入れます。
その時に使っている筋肉が骨盤底筋です。
方法②
裸になり、鏡を使って会陰部を視認します。(性器とお尻の穴の間の部分を見る)
次にお尻を締める動作をします。おならが出るのを我慢するような感覚とも言い換えられます。
その際に鏡を見て、お尻の穴の位置が最初よりも上に持ち上がり、体の中に寄るのが確認できれば、その際に使っている筋肉が骨盤底筋です。
方法③
膣内に自分の指を挿入し、膣を締め付けます。その際に指に圧力を感じたのであれば、正しい骨盤底筋を動かすことが出来ています。
方法④
タンポンが膣内に入っていて、それが抜け落ちそうだとイメージします。その際に膣に力を入れてタンポンが抜け落ちないようにします。その時に使っている筋肉が骨盤底筋です。
ちなみに私は女性に骨盤底筋を意識する際には、「おしっこを我慢するときに力を入れる感覚」といった風に主に①の方法を簡略化して伝えます。
それが最も分かりやすく、かつ確かめることに躊躇いが出ないような方法だからです。
もしもそれが分からない場合や、もっとはっきり確かめたいのであれば、鏡を使って客観的に観る方法や、実際に指を挿入して力を入れてみるといった方法で確かめても良いでしょう。
簡易版膣トレ・ケーゲル体操の方法
最も簡単な方法は以下の通りです。
①適度にリラックスできる体勢を取る(貴女にとって心地よく、かつ②以降の動作が簡単にできるのであれば寝転んでも、座っても、立っても良い)
②骨盤底筋に力を入れる。ただし、お腹や内腿、お尻には力を入れずリラックスさせておく
③その状態で5秒から10秒間我慢する
④入れている力を抜いて、10秒ほど骨盤底筋をリラックスさせる
基本のエクササイズは以上の①~④の動作を5回繰り返すだけです。
もしも最初は5秒間しか力を入れるのを持続できないのであれば5秒から始めて、慣れてきたら10秒間に変えるようにしましょう。
また、トレーニングそのものにも慣れてきたらエクササイズの回数を5回から10回に増やすなど強度を上げていきましょう。
それだけで十分に骨盤底筋を鍛えている感覚が得られないのであれば、実際に指を挿入して、力を入れる度に膣圧が大きくなっているか確かめても良いでしょう。ちなみに、研究者によっては骨盤底筋の強さを最適化するために、ケーゲル体操に加えて腹筋運動を取り入れることを勧めています。
さらに余談ですが、ヨガやピラティスなどにも効果があると噂されているものの、実質的な研究・調査及び評価があまりなされてはいないそうです。
下の動画では骨盤底筋を鍛えるピラティスの動きが紹介されているので、興味がある方は参考にしてみてはいかがでしょうか。
呼吸のタイミングも指示されているので分かりやすいと思います。
個人的な意見としては、基本的には大きな筋肉を鍛えるとそれに付随して動く筋肉も鍛えられるので、運動量が多い人だと既に骨盤底筋も鍛えられている可能性があると思います。
従って日常的に運動をしている人はそこまで細かく筋肉を鍛える必要はない気がします。
ある程度の筋肉がある人はむしろ、トレーニングによって筋力それ自体よりも膣への意識を高めることが成果につながると思います。
膣トレ・ケーゲルエクササイズの頻度と注意事項
上記の注力・脱力のみの簡単なエクササイズを一日に3回(3セット)行うことを目標にしましょう。
といっても立て続けに3セット行うのではなく、可能であれば朝昼晩の3回に分けたほうが良いでしょう。
例えば、朝起床した際に1セット、お昼にテレビを見ながら1セット(もしくは職場のトイレで1セット)、夜の就寝時に1セット行えばバランスよく1日3セットをこなすことができます。
もっともこれは膣トレ器具等を使用しない簡単なエクササイズを行う場合の一例にすぎませんが。
やり過ぎに注意
ケーゲル体操を行う際はエクササイズの強度や頻度を上げ過ぎないように気を付けましょう。
過度の負担を強いるケーゲル体操は膣周辺に負担をかけてしまいますし、性交痛の原因ともなり得るので、無理のない範囲で行いましょう。
また、当然のことですが病気等で身体の調子が悪い、術後・産後間もないといった女性はこのようなエクササイズをしてはいけません。
どうしても気になる場合は信頼できる医師と相談して取り組んでいくように気を付けて下さい。
トレーニングだけが改善方法ではない
必ずしもトレーニングのみが弱った骨盤底筋の強化に役立つわけではありません。
筋肉量には遺伝的要因、神経系の働き、内分泌系の働き、環境的要因、栄養状態、そして運動量が関わっています。
従ってトレーニングやエクササイズだけに終始するのではなく、食生活や生活リズム、睡眠時間などにも配慮しましょう。
膣トレ器具・ケーゲルボール等について
ネット販売等で膣トレのための器具を購入することが出来ます。
ものによっては大きさの異なるボールが数個セットで封入されており、膣のサイズや挿入感によって使い分けることが出来るように設計されています。
例えば無理なく挿入できる範囲の話ですが、太く大きな器具を挿入すれば膣の締め付けが弱くてもその存在を十分に膣内で感じられるでしょうし、膣トレに慣れてきたのであれば細い形状の器具を強く締め付けるようなトレーニングをしたりと変化をつけることもできます。
しかし一方で必ずしも膣トレ器具を使用した方がトレーニング効率が上がるというわけではないので、無理に導入する必要はないでしょう。
むしろ通常のケーゲルエクササイズの方が効果が高いとする意見もありますので、無理に器具を使うことはしなくて良いと思います。
ここ数十年の間にそのようなセックストレーニング器具が売れるから市場に流れているだけだという意見もありますから。
ただし、それとは逆にケーゲル氏が考案した元々のケーゲル体操には女性器への器具の使用が含まれており、後続の医師がその過程を省いたことでケーゲル体操の効果が著しく減少した、故に器具を使用することのみが有効であるとする意見もあります。
結局のところ上記エクササイズを単独で行った場合と、器具を使用することによる効果に差異があるか否かについては意見が分かれるところです。
ではどちらが良いのかと問われると、自分の体に負担がかからないと思う方を選択すればよいと思います。
もしも貴女が器具を使っている方がトレーニングをしているという実感を得られる、器具を使用する方が習慣的に続けて行うことができるというタイプであれば、膣トレ器具の購入を検討してみても良いかもしれませんね。
実際にそのような膣トレグッズを購入して使用することに抵抗がある方もいるでしょう。
単純に所持することが躊躇われるという意見もあれば、洗浄・保管が面倒だという意見もあることでしょう。
その場合はシンプルなエクササイズを適切な頻度で行うにとどめておきましょう。
重要なのは弱っているであろう筋肉を通常レベルまで鍛えることと、過度な負担にならないエクササイズを行うことです。
元々骨盤底筋を始めとした筋力に問題がない方、エクササイズを通じて筋力に自信がついた方・・・
それでもエッチで気持ち良さを感じにくい、自分の身体の感度に不安を覚えているという女性は、当ブログで行っている女性専用の性感マッサージ・性感帯の開発についてもチェックしてみて下さい。
ケーゲル体操への批判等について
ケーゲルエクササイズが国内外の女性誌等で「膣トレ」として何度も取り上げられていることに対して、批判的な意見もあるかと思います。
私自身は弱った骨盤底筋を標準レベルまで取り戻すという目標を超えてのトレーニングにはさほど大きな意味はないと思っています。
オーバートレーニングがもたらす悪影響についても上述の通りです。
大学や研究者が限定的な検証環境においてケーゲルエクササイズには女性のセックス満足度を高める可能性があると結論付けていることに対して、疑問を呈する人がいることも理解できます。
しかし、器具を用いない簡易なケーゲルエクササイズを批判している方の動画や文章をよくよく見てみると、インナーボール、Yoni Eggといった器具を購入させるための宣伝もあり、そちらが信頼できるかというと難しく感じます。
ですので、あくまで女性のセックスライフを向上させるためにこういった方法が勧められることもあるという程度に受け取っていただけると良いかと思います。
その上で興味があれば無理のない範囲で試してみることをお勧めします。
参考にしたもの
雑ですがメモ程度に書いておきます。
興味のある方は読んでみて下さい。
・Barry R., Ph.D. Komisaruk, Carlos Beyer-flores, Beverly Whipple Science of Orgasm 2006
・bgraberunomah.edu, Benjamin & Kline-Graber, G. (1979). Female orgasm: Role of pubococcygeus muscle. The Journal of clinical psychiatry. 40. 348-51.
・Marques A, Stothers L, Macnab A. The status of pelvic floor muscle training for women. Can Urol Assoc J. 2010;4(6):419-24.
・Golmakani N, Zare Z, Khadem N, Shareh H, Shakeri MT. The effect of pelvic floor muscle exercises program on sexual self-efficacy in primiparous women after delivery. Iran J Nurs Midwifery Res. 2015;20(3):347-53.
・Leah Jamnicky, RN Pelvic Floor Exercises (Kegel) University Health Network 2017